特別受益と寄与分に関する主張に期間制限

2022年04月14日 16:19

特別受益と寄与分に関する主張に期間制限が設けられます

 前回コラムにて「空き家対策等」を見据えた民法の一部改正が行なわれ令和5年4月1日より施行されますとお話ししましたが、「空き家問題」と紐付いて「所有者不明土地問題」という社会問題を解決するためでもある訳です。
 つまり、「空き家」「所有者不明の土地」、その発生原因の主たるものとして「相続における遺産分割問題」があり、それが解決できないために、適切な相続登記が行なわれずに問題化していく(相続開始後も遺産分割が行なわれず放置され、数世代前の名義人のままで、現在の所有者の特定が難しい、あるいは、共有状態が続き相続人が数十人数百人となっている等)と考えられ、その発生原因を抑えることで「空き家・所有者不明土地問題」が抑制されるとして、遺産分割を促進する為の改正が行なわれました。
 その一つが「特別受益・寄与分に関する主張の期間制限」です。
特別受益については、民法903条・904条にて規定され、寄与分については民法904条の2にて規定されています。
そして、改正法においては、「民法903条から904条の2までの規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない」との規定が民法904条の3の本文として新設されました。
今までは、相続における遺産分割では、特別受益や寄与分の主張をもとに具体的相続分が決定し、遺産分割が行なわれるという筋道でしたが、今回の改正により、相続開始の時から10年経過後は、特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分による分割ではなく法定相続分又は遺言による指定相続分に基づいて遺産分割することが原則となります。
「空き家・所有者不明土地問題」の発生を抑制するための手段として、遺産分割を促進する為の改正と考えると、特別受益や寄与分の主張そのものが最終的な遺産の分割を遅らせる要因となることは間違いないので、10年間だけ主張する期間を与えて、その間に具体的相続分を決定して、遺産分割を完了してください(そして相続登記を完了してください)、10年間で決まらなければ、遺産分割完了を遅らせる要因となる特別受益や寄与分の主張はできません、法定相続分又は遺言による指定相続分で決めて、相続登記を完了して下さい、ということなのでしょう。
この規定には例外があります。
一つめは、相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割請求をしたとき(改正民法第904条の3第1号)です。
二つめは、相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6ヶ月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6ヶ月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき(改正民法第904条の3第2号)です。
そして、例外規定として法文化されていませんが、10年の期間経過後に、相続人間で具体的相続分による分割をする旨合意がなされた場合も、私的自治の観点から有効となります。
この改正民法904条の3は改正法施行日(令和5年4月1日)前に開始した相続の遺産分割にも適用され、例外規定の扱いに細かな経過措置があるようですから注意が必要です。
実務上問題となりやすいものとして、両親と複数人数の子供がいる家族において、一次相続(例えば父親)と二次相続(例えば母親)の遺産分割を二次相続時に同時に行なおうと複数人数の子供同士で合意をしていた場合、一次相続と二次相続の期間が10年以上経過しているとき、一次相続については特別受益と寄与分の主張の期間制限の対象となりますので、一次相続に関しては主張できないが二次相続に関しては主張できるという複雑な問題が発生してしまいます。
また、単純に相続手続きをせずに放置している場合にも、相続開始後10年を経過してしまうと
期間制限の対象となります。
 相続開始後10年が経過していても、相続人間で争いなく具体的相続分を決めることができるのであれば、それが特別受益や寄与分を考慮したものであっても有効となるのは前述したとおりですが、特定の相続人に対する特別受益や特定の相続人の寄与分の主張は、相続人間での話し合いでは決着しづらく、長期間の争いに発展しやすい特徴があるので難しいところです。
 特別受益や寄与分の主張を考えている相続人は、期間制限が設けられたことを知り、遺産分割を放置(先延ばし)せずに、他の相続人に対しても遺産分割を行なうことを働きかけるなど、相続開始後の手続きの一つとして一定期間内に行なう必要があります。

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