相続において不動産が相続財産にある場合には、遺産分割協議自体が調わずに分割が行なわれない「共有状態」が続く場合があります。
この「共有状態」を解消するためには遺産分割協議が必要となりますが、協議が調わないときは家庭裁判所が介入する形になります。
一方、通常の「共有状態」において、共有解消をする場合は「共有分割の手続き」を行なうことで共有状態を解消することができます。この場合介入する裁判所は地方裁判所となります。
遺産の共有と通常の共有が併存す場合には、「遺産分割手続き(家庭裁判所)」、「共有分割手続き(地方裁判所)」の両方を行なわなければなりません。
例えば、山田さんと田中さんが不動産を共有していた場合において、山田さんが死亡し、その相続人は太郎と二郎であるが、遺産分割が未成立であるケース。
この場合、田中さんと山田さんの相続人である太郎さん及び二郎さんの間の分割は「共有分割手続き(地方裁判所)」を行ない、山田さんの相続人である太郎さんと二郎さんの間の分割は「遺産分割手続き(家庭裁判所)」を行なうことになります。
現在はこの二つの手続き(地方裁判所と家庭裁判所)が行われるのが通常なのですが、遺産分割の前提問題として争いがある等の理由で遺産分割が調わずに、遺産である土地などが長期間放置されてしまうと所有者不明土地問題等に発展してしまう可能性もあることが問題視されています。
そこで、相続開始から一定期間経過後の共有物の遺産分割に関して民法の改正が行なわれました。
遺産分割手続きが進まないことで複雑な共有状態が継続することを避けるために、改正民法では
「共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物について通常の共有分割手続き(地方裁判所)による分割をすることができない」という原則を維持しながらも、「共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、相続財産に属する共有物の持分について、通常の共有時に行なわれる「共有分割手続き(地方裁判所)」によって分割することができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が共有物分割について異議の申出をしたときは、この限りでない」としました。(2023年4月1日施行)。
遺産分割上の権利(最判昭和50.11.7では、具体的相続分による分割等を受けることができる権利を「共同相続人の有する遺産分割上の権利」と称しました。)を長年にわたって行使せず、共有物の分割請求がなされても遺産分割上の権利を行使しないような場合は、当該相続人はその共有物について遺産分割上の権利を行使する意思がないと考えられるから、当該相続人を不当に害することはないという判断からのようです。
この改正法の施行により、相続開始後10年を経過し、かつ、共有分割請求がなされた後も他の相続人が遺産分割の申立てをせず、また、遺産分割の申立てをしても共有分割による処理に異議の申出をしないときは、地方裁判所は共有物の分割を命ずる判決において、相続人間の分割もすることができるようになります。
この規定は、まず相続開始後10年を経過、その後に、共有物分割請求をした場合に限って適用されるものなので、その点(順番)は注意が必要です。
前述の例、田中さん、太郎さん、二郎さんの関係で相続開始後10年経過という前提条件のもとでみてみます。
田中さんが、太郎さん・二郎さんを被告として共有物分割訴訟を提起した場合に、太郎さん・二郎さんが遺産分割の申立てをせず、また遺産分割の申立てをしても共有物分割による処理に異議を申出しないときは、地方裁判所は共有物分割の判決において3人の持分を分割することができ、仮に田中さんが全面的価格賠償により共有物の分割を求め、地方裁判所がこれを認めた場合に、田中さんから支払われる賠償金に関しては、遺産分割手続きによらず、太郎さん・二郎さんの法定相続分又は指定相続分によって分割されるものと考えられます。
また、太郎さんが当該不動産の全部を取得することを希望した場合、二郎さんが当該共有物の持分について異議の申出をしなければ、家庭裁判所における両名による遺産分割手続きを経ることなく、地方裁判所で共有物の分割をすることが可能となります。
以上のように改正法により今までより共有解消の方法が少しだけ簡単にはなったのかもしれませんが、これは事後的手段であって共有にしないための手段ではないので、単純な共有状態を作らないことがより重要であることは間違いないと思います。
可能であれば相続開始前に遺産となる不動産の分け方を検討して、そのための準備をしておくことが望ましいのですが、準備なく相続開始となった場合には共有がもたらす弊害をよく理解して遺産分割を行ないたいものです。